東京藝術大学入試情報サイト > 川崎 槙耶

「藝大に入学しようと思った理由は、藝大附属高校に在籍していたからです」……こう言ってしまうと身も蓋もありませんが、実際に大学に入る前までの私は音楽に対する強い思いがあまりなく、敷かれたレールの上を進むようにただただピアノを続けていました。しかし、大学に入学してから経験したある2つの出来事が私を大きく変えてくれたのです。

ひとつは「即興創造講座」という授業。複数人でフリースタイルの即興セッションをするという授業なのですが、既存の楽譜を読み解きそれを演奏することしかしてこなかった私にとって、また幼い頃から創作にも興味があった私にとってそれは衝撃的な体験でした。無から何かを生み出し自ら表現するという創造行為に強く惹かれ、その後は自主企画のコンサートでも即興演奏を発表するなど外部での活動に繋げていきました。

もうひとつは、学内にてシュトックハウゼンの御息女マイエラ氏にシュトックハウゼン作品のレッスンをして頂いたことです。ピアノ科の掲示板で「受講者募集」の貼り紙を見つけ、すぐに図書館で楽譜を借り譜読みに没頭しました。現代音楽作品には以前から多少触れていたのですが、このレッスンを機にさらに現代音楽に興味が湧き、現代音楽の文脈や歴史的背景について深く知りたいと思うようになりました。

学部在籍中に得た2つの貴重な経験は今の私の考え方や方向性に大きく影響を与えています。また演奏分野以外の学生、特に作曲科や美術学部の友人との交流はとても刺激的で、新たな発見の連続でした。これまで行き先も分からずなんとなく進んできた道がクリアに拓けていくきっかけは意外と身近なところにあるのかもしれません。

現在、私は大学院に進学し、実験音楽における表現者の自由性について研究しています。果たしてピアノ科という肩書きに相応しい研究なのかは分かりません。しかし、専門を超えて様々な授業を受けられ、あらゆる視点から芸術を学べるのは藝大にいるからこそできることだと思います。これからもこの環境や周りの方々に感謝しながら、自分の本当にやりたい音楽活動を続けていきたいです。

 

学部2年次に開催した自主企画コンサートにて

 

コンピュータでプログラミングした音楽作品を創作する授業にも参加し、最後は作品発表を行いました。