東京藝術大学入試情報サイト > 韓 河羅

学部時代は韓国の大学で東洋史や考古学を勉強していたので、美術館や博物館で働く機会に恵まれました。様々な美術品に触れるなかで、目の前に存在しない他者や出来事にそっと思いを馳せる力が芸術には宿っていると感じるようになりました。その経験が、表現者や芸術そのものに魅了されるきっかけだったのかなと思います。

次第に、表象よりも芸術に触れる「場」に興味を持つようになり、現代美術展やアートオークション、アートプロジェクトの現場でインターンをしました。それぞれ性質の違う現場でしたが、唯一共通していた点は、アーティストと鑑賞者「以外」の多くの主体が関わっているということでした。例えば、行政や企業、アートチーム、市民ボランティアなどがそうです。したがって、どの現場も色んな思惑がぐるぐると渦巻く複雑な様相を呈していました。複雑であればあるほど、つまり、誰しもが何らかの形で芸術に介入できる場であるほど芸術がより身近になっていくと実感し、そのような場を仕掛けるための支援と繋ぎ手について考えたいと国際芸術創造研究科アートマネジメント領域を志望しました。

入学後は、文化政策やアートプロジェクトの基礎を学びつつ、海外ゲストによる色彩豊かなレクチャーを聞くことで国内外の幅広い知見に触れています。また、本科の同期や先輩後輩はバックグラウンドがユニークな人たちばかりで、領域を横断した交流からも日々刺激を受けています。

研究に関しては、官民協働のアートプロジェクトに身を浸しながら、その場で起こっているささやかな疑問を拾い集めているところです。アーティスト、行政、アートNPO、市民といった異なるステークホルダーの思いが交差する場でどのような相互作用が起こっているのかをつぶさに見つめ、芸術という名のもとに多様な立場の人々が巻き込まれていく現象に絶えず思い巡らせています。

目下の目標は、市民と芸術を繋ぐべく奔走する自治体の姿を修論で丁寧に記述することです。将来的には、見えざる・見落とされている繋ぎ手の価値を、研究を通して描きだしていきたいです。