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岩絵の具の虜

私が藝大日本画専攻を志望した動機は、幼い頃から好きな絵画を一生の職業にしたいと思ったからです。

また、日本人画家として最大の強みは日本独自の感性と技術であると考え、せっかく日本人であるならば、存分にそのアイデンティティを活用するべきだと思い、日本画の道を選びました。


日本画は岩絵の具という天然の顔料を用いて描きます。

岩絵の具の色は、鮮やかでありながら深みがあり、粉の状態から定着剤を混ぜて絵の具を溶くため、作家の匙加減で質感や色合いを多様に変化させられる魅力的な素材であります。

古来より、日本が作り上げてきた絵の具の虜となったことも、日本画を描く大きな理由の一つです。


日本画家を目指すとなれば、明治より日本画の文化を確立・展開させてきた東京藝術大学で伝統を学ぶことは最も有意義であると考えます。

数々の著名な芸術家を輩出しておりますので、その写生や学生時代の作品を至近距離で見ることができますし、国宝を実際に写生させていただく機会もあります。

私は、大学院から国宝『伴大納言絵巻』の現状模写に取り組んでおり、年に2回特別に現物を観覧させていただき、当時の色や線描法、場面構成など様々な視点で研究し、自らの作品制作に還元しております。

このように貴重な芸術作品に触れる機会が多いことも、藝大の伝統と信頼ならではでしょう。

また、入学試験においても高い技術力が要求されますので、同級生のレベルが高く、卒業後も作家として活躍する人が身近におり、常に自らを第一線の環境下に置くことができます。


作家とは個人の力で成り立つものではなく、先生方の講評やライバルの存在があることで新たな創作性を模索しようと努力するものです。

私は、生涯切磋琢磨の環境に身を置きながら、伝統と創作の研究に努め、これからも日本画制作を続けて参りたいと思います。

(2015.6)

「景しき遠く」
吉田侑加_景しき遠く_web

2014年制作/F150号/麻紙・膠・墨・岩絵の具・銀箔・黒箔・プラチナ箔/東京藝術大学大学美術館蔵

「国宝 伴大納言絵巻中巻絵四 現状模写」
吉田侑加_伴大納言絵巻_web

2014年制作/薄美濃紙・膠・墨・岩絵の具・水干絵の具/東京藝術大学日本画研究室蔵

プロフィール

1989年 神奈川県生まれ
2009年 東京藝術大学美術学部日本画専攻入学
2013年 東京藝術大学大学院修士課程日本画領域入学
2014年 第25回臥龍桜日本画大賞展 優秀賞
再興99回院展 初入選
東京藝術大学修了制作展 修了作品大学買上げ
2015年 東京藝術大学大学院博士課程日本画領域入学
第70回春の院展 初入選
再興100回院展 入選