東京藝術大学入試情報サイト > 上水樽 力
関心の根幹は変わらない
音楽を享受する場が細分化されている今日、受け手が無自覚に自らを縛り付けるような聴き方をしてしまい、本当に求める音楽との出逢いの機会を失っているのではないか。
このような問題意識が音楽環境創造科を志望する動機となりました。同時に、例に漏れずクラシック音楽に没頭していた自分自身を様々な分野の人々が集う音環に投じることで、視野を広げたいとも考えたのです。
音環には現在6つの領域=「プロジェクト」があり、学生は皆いずれかに属しています。
授業ではそれぞれの領域における専門事項はもちろん、いずれにも共通して役立つことからさらに幅広い事柄まで扱っており、領域横断的に学びながら4年かけて専門性を深めてゆきます。
6つのプロジェクトと一口に言っても、20人の学生がそれぞれ全く違った方向性を持っていて、抱えている課題も異なるのが実のところ。20通りの高い壁に直面して日々思い悩み、先生方にも親身に相談に乗っていただきながら必死にそれを乗り越える4年間を過ごします。
視点や立場こそ違いますが、社会など身の回りで起こっている事柄に対して各々が強い関心と意見を持っている点、常々頭を抱えている点などは似ているのかもしれません。専門は違えど共通の話題で盛り上がることもしばしばありますから。
私は元々アートマネジメント領域を志望していましたが、入学してからは音楽制作に落ち着きました。
興味が変わったということではなく、音楽が享受される場とそこにアプローチする方法への関心はそのまま、「場を作る」側から「コンテンツを作る」側に転じただけで、根幹は変わっていません。
現在は大学院でスコット・ブラッドリーというカートゥーン・アニメーション作曲家を研究しています。商業アニメーション制作という場で、いかに彼がシリアスな理念からアプローチしたのか。やはり関心の根は同じですね。
彼の理念を明らかにすることはもちろん、将来的にはこれを自作品に生かし、また伝えてゆくことで映像音楽に一つの切り口を与えられればと思っています。
(2015.6)
プロフィール
1990年生まれ、千葉県出身。東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科を経て、同大学院修士課程音楽文化学専攻音楽音響創造研究分野を首席にて修了。修了時、大学院アカンサス音楽賞を受賞。現在同大学院博士後期課程に在籍中。音楽制作を西岡龍彦、香取良彦両氏に師事。
歌曲、純器楽作品から映像のための音楽まで幅広く手がける他、アニメーションフェスティバル「GEORAMA 2016」においてはミュージシャンのトクマルシューゴ氏との共作、共演を行うなど領域横断的に活動を繰り広げる。創作活動と並行して、同大学院にて米国のカートゥーン・アニメーション音楽における創作技法とその周辺を対象に研究を行う。
アニメーション作家、中内友紀恵との共同監督による修了制作作品、《I’m here》が国内外の多数の映画祭でノミネートされている他、MITSUBISHI CHEMICAL JUNIOR DESIGNER AWARD 2012 柏木博賞(共同制作:栗原綾子)等受賞多数。