東京藝術大学入試情報サイト > 荒木 秀造

自らを知る時間

かつて自分は、日が暮れるまで外で遊び、虫とソフビ人形が大好きな、どうってことのない少年でした。
そもそも芸術を目指したのにとりたてた理由はなく、「高校はどこ行くの?」と、選択を求められたときに美術科を選んだことがきっかけとなったのです。

東京藝大を受験したのは、単純に周りから「最高峰だから受けてみろ」と言われたためで、藝大が何なのかもわかっていませんでした。

一度受験して落とされて初めて壁の大きさと厚さを知ったのです。
悔しくて何が足りないのか知りたくて、受け続け、三度目の正直で合格しました。

実際入ってみると1年生は粘土と木、石など素材を変えながら、ひたすら基礎勉強をします。
新しい素材に触れる楽しさはもちろんありましたが、自ら素材を選び、巧みに表現する4年生や院の先輩たちとの差を大きく感じ、自分自身の力に自信が持てず、萎縮してしまっていました。

2年生は、金属、テラコッタなど、また新たな素材を通しての基礎を学ぶのですが、「学生のうちは好きなものを作れ」という校風に触れる中で、肩の力が抜け、自らが作りたいものに対して素直に体が動くようになってきました。

ようやく3年生から自由制作になり、専門に扱う素材を選び、基礎から抜け出した作品を作るようになります。このころになると作りたいもののイメージが具体的になり、それに適した素材は木だと考え木彫を選択しました。

4年目は卒業制作にとりかかります。
丸一年間それだけに打ち込むことのできる環境があることにありがたさを感じました。

作品が無事完成し、卒業制作展に出展することで卒業となるのです。

4年間は自分が何を作りたいのか、それを作った時にどんな反応を得られるのかといった自らを知る時間でありました。
将来どうあるかはこれからの課題です。

院に入ってからは、より外に向けて作品を展開させ、挑戦し、それに応える技術力を向上させたいと考えています。

大学で学べることは芸術の道の入口に過ぎないということを知りました。

しかし大学は、そこに集う様々な人との出会いにより、刺激を受け、チャンスを得、自己を高め、前進する勇気を与えてくれる場所でもあると思うのです。

(2016.6)