東京藝術大学入試情報サイト > 奥村 研太郎
大学入学前は、神輿を作ることをとにかく目標にしていました。先輩から、一年生はみんなで神輿(芸大の場合発泡スチロールで作る大きい彫刻)を作って担ぐんだよと聞いてからは、受験で荒んだ心はいつか作ると心に決めたその巨大な彫刻の幻に癒され励まされてきました。兎にも角にも巨大な彫刻を作りたかったのです。
さて入学して、実際に神輿制作が始まります。4月中から幹部として始動し、前期は9月の藝祭本番までほとんど常に専攻の課題や教養科目と並行して、立体のアイディアやその投票の仕方・仮の模型を作り始めるなど、いろいろな作業を行います。それに伴う煩雑なこと-恐らく初めて行われた美術学部他科との協働(油画専攻は建築と一緒に作りました)や意見の統合など−ももちろん多いですが、全て大切な時間になりました。
これほど濃密に同じものを同士と時間をかけて作るという経験は得難いものです。そして単純に、大きな立体を作る楽しさとその完成を目の当たりにした時の光り輝く光景は、なんとも快いものでした。しかし同じことをもう一回しろと言われたらもう嫌だと言います。それくらいの大変さはありました。これから入学するみなさんは是非その経験に期待して欲しいです。
神輿はみんなそんなもの作ったことがない中で白紙の状態から始まります(先輩からノウハウを伝授してもらうことはありますが、ほとんど自分達で進めます)。大学に入ってからの個人の制作も同じように、白紙の状態にしてから全てを始めたいと思っています。過去の自分が現在の自分を規定するという話もありますが、そんなのは後で振り返ってみてこういうことだったのかと気づくぐらいで十分だと思います。白紙になって考えるって難しいですよね。
私は常に自分の怠惰と過去の思念に囚われまいとしつつ囚われ四苦八苦していますが、色んなメディアに手を出してみて色んな物語を体感してみて、そのあとさあ何がしたいんだい君は!?と自分に問いかけてみるということを意識してみるのは価値あることと思っています。
たまには白紙じゃなくて黒紙に白で描いてみてもいいと思います。