東京藝術大学入試情報サイト > 島津 利奈

模型に囲まれ、油絵の具の匂いがする父の事務所は、幼い頃の私の1番お気に入りの場所だった。

学校から帰ってはすぐに事務所に向かい、油絵を描く父の横で線画パースをぬり絵がわりにする。「うまく塗れたら採用してあげる」父の軽口は私をどんどん夢中にさせた。

車の中、通りすがりに「”お父さんの(設計した)家”だよ」と教えてもらう。”お父さんの家”は街中にポツポツと転がっていて、まるで父が街を作っているようで、ただ、カッコよかった。幼い頃の私にとって、父は、建築家は、憧れの存在になった。

建築設計士でもあり、美大生でもあった父の影響で、物心つく前から 建築 と 美術  が一緒になって側にあった私は、進路を決める時、迷いなく藝大の建築科を選んだ。そうして入った藝大建築科は、間違いなく恵まれた環境だった。ひと学年には15人しかおらず、学部生は全学年同じ部屋、院生はすぐ隣の研究室。誰がどんなことをやっているのかすぐ分かり、学年の垣根を越えてみんなが通りすがりに意見をくれる。

学部生の間は全教授に課題を担当していただくのだが、助手さん・先生方との距離はとても近く、いつでも自分から聞きに行ける環境である。課題の最中先が見えず困っていても、先輩後輩、助手さん、先生方、必ず誰かが手を差し伸べてくれた。

また、藝大には自分の好きなことに関してとことん話せる人たちがいる。建築だけではない。油画も、日本画も、デザインも、バイオリンも、ピアノも、美術学部、音楽学部問わず、とにかく自分の好きなこと、興味のあることを突き詰めたい人が集まっているこの場所では、怖がらずに自分の好きなものを好きと言い、表現することができる。

この環境でもう少し学びたいと思い、今年から大学院美術研究科に進学した。大学院は、他大学から進学する人も多く、学部とは異なった新しいことが学べる環境だと感じている。

学部生の時はとにかく思いつきで作り進め、食らいつくのに必死だったが、院ではもっと知識をつけて、建築を語れるようになりたいと思っている。藝大は、今の私のお気に入りの場所だ。