東京藝術大学入試情報サイト > 鶴田 航
「この中で一番かっこいい本を買ってみよう」
そう思って地元の町の一番大きな本屋さんで、ある一冊の本を手にとった。よくあ
る話だけれど、美術と数学・物理の間なんて謳い文句に惹かれて、ケンチクが面白
そうだというのは頭にあったから、棚を選ぶのに時間はかからなかった。
手に取った本の名前は『informal』(著者、Cecil Balmond、訳:山形浩生、日本
語版監修:金田充弘)背表紙に惹かれて、パラパラと中身をめくると、魅力的な数
式や図、写真やスケッチ、そして詩的な言葉が綴られていて、どんどん読み進んだ。
けれども面白そうだということはわかるのに、内容は全くわからなかった。この、
面白いのにわからないということが、僕を強烈に引きつけた。気がつくと、著者か
ら、登場する建築家、訳者、そして日本語版監修者まで隅から隅まで調べあげてい
た。そんな中、日本語版監修の金田充弘さんのことを調べているうち、どうやらゲ
イダイというところにも建築科があるらしい、ということにたどり着いた。直接見
てみたいと思った僕は、当時の教員に連絡を取り、学部の合同講評会の見学に行く
ことに。そこでは建築を共通言語に、思い切り表現と議論をする空間が広がってい
た。教員に学部生、院生までが混ざり合い、良いものを作ろうとする熱気がそこに
はあった。こんなにも恵まれた環境で、愛のある教育機関が他にあるだろうか、も
うここにいくしかない。そんな思い込みが、僕を芸大へと向かわせたのだった。
いま僕は芸大の建築科を卒業し、大学院生として金田充弘研究室で建築を学んでい
る。ここでも何かを教えてもらう、といったヒエラルキーはなく、学生と教員が建
築に関わる作家として対等に会話ができる環境がある。だからこそ厳しく、緊張感
もあるのだけれど、刺激的な空気の中、高校生の時に感じた面白いけどわからない、
その感覚を信じて、日々制作に没頭している。
プロフィール
愛知県出身
2015 愛知県立刈谷高等学校卒業
2019 東京藝術大学美術学部建築科卒業
現在 同大学大学院美術研究科建築専攻金田充弘研究室在籍