東京藝術大学入試情報サイト > 安達 七佳

出身地、年齢、話す言語も様々な講師陣、学生が集まるGAPは、アートへの情熱を除けば、共通点よりも相違点の方が多いバラバラな集団だと思います。活動も国内外の様々な場所、手法も多岐に及びます。GAPという存在は、自分の思い込みの中にある常識や、当たり前といった偏りをときほぐしてくれる貴重な場所です。私は日本の大学を卒業後、スウェーデンにて7年テキスタイルを学びました。その経験によって、日本で生まれ育った私の視点は日本を起点に世界へ向いているのだと感じるようになりました。現在はGAPに通いながら改めて日本人として自身の外側と内側を鍛錬しています。GAPはそんな私の思考や活動の実験の場として最適でした。

私達は昨年度、GAPプログラムとして避難解除後の福島県内へ行きました。車両通過のみが許可された真夏の青々とした山の中を私達の乗るバスは進みました。沢山のトンネルをくぐる度に、私はそのトンネルの存在と平凡な日常について思いを巡らせていました。この沢山のトンネルは誰かの仕事の痕跡なんだ、そして私はどんな痕跡を残しているのだろうと思ったとき、ふと実家に置いたままの私の洋服たちを思い出しました。誰も着ない埃を被り倉庫で放置されている洋服の山。この洋服の山を、福島の山中で見たトンネルのようにチューブにして人を集めて何かできないかと考えました。私の家族と私自身の思い出の品や古着の上で、誰かと誰かがたわいない話をしたり、日常を少し共有したらどうなるかなと。洋服をチューブ状に縫った作品の中に詰めた結果、重すぎて一人では運べないほどの人の跡、思考の塊となった作品はGAPのみんなの手を借り展示会場へ運び込まれました。倉庫で忘れ去られた洋服たちは、人が座ってくつろぎ、集まる場所となり、また新たな思考を巡らすきっかけとなりました。

このような思考や視点を分かち合える環境を、私は自身の芸術活動を通じて作りたいと思っています。作家として、作品を見る人に素朴な疑問を投げかけ、私達が日頃からなんとなくやり過ごしていたこと、無意識のうちに私達の中にできた価値観について省み、人々の視野を広くすることができればと思っています。