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バッハの楽譜の走り書き
藝大進学を決意したきっかけを、今でも鮮明に覚えています。それはピアノを習っていた頃、バッハの楽譜中に「チェンバロ」という走り書きを見つけた時のことでした。
ドイツ留学や教育研究助手などの経験を積んだうえで、今、改めてこの古楽専攻に籍を置いていますが、古楽界の第一線で活躍されている先生方の感性に直に触れて勉強できる日々に感謝しながら学生生活を送っています。
藝大古楽専攻の一番の特徴は、声楽と器楽が合わさって一つの専攻を成していることです。様々な授業の中でも特にアンサンブルに力を入れており、時代や地域ごとの様式感を身につけた演奏家の育成を目指しています。
具体的には、編成別に分けたアンサンブル授業(声楽中心、弦楽器中心、そしてチェンバロ・リコーダー中心の計3種)があり、異なる楽器・声種の学生同士で演奏をします。
アンサンブルでは楽器や声種を越えてアイディアを共有するので、自分の専門分野のみからでは気付きにくい解釈や表現方法をお互いに得ることができます。
私自身、バロック声楽の伴奏をする中で、レッスンなどで得たアイディアはチェンバロ演奏に必要なイメージ作りにとても役立っています。
自身の目指す音楽へ近づくためのヒントは、意外とチェンバロ以外の楽器での演奏表現の中に潜んでいるのだと経験を通して学びました。
作曲家や作品の成立背景、様式に適した楽器について事前に調べたうえで演奏する勉強会も定期的に開催しています。知識と演奏表現を結びつける場となり、客観的に自身の演奏を見つめ直す絶好の機会とも言えます。
作曲家の考えや想いを音にのせて聴き手に伝える、その橋渡しとなる「演奏」という行為は、まさにアイディアを他者に伝える弁論と同じことです。
古楽専攻は、学生がお互い切磋琢磨しながら伸び伸びと勉強し、音楽による会話が溢れている素晴らしいところです。
古楽専攻で過ごす充実した時間の中で、広い視野で自分のセンスを磨きながらたくさんのことを吸収しようと、私も日々奮闘しています。
(2015.6)