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表現の意志

地方に生まれ育った私は、刺激してくれる仲間やレッスンが欲しいと思い、同年代のコンクールのビデオを見たり、アドバイスレッスンやマスタークラスを受けたりしていました。
当時の私の勉強法は、その都度カメレオンのように真似ること。

なにかもっと本質を学びたいと思い、受験を決意したのが小学5年生の時です。

ピアノ専攻は1学年約25人、入学して私の渇きは一挙に潤おいました。
それぞれが既に「自己の音楽観」を持っていることに驚いただけでなく、音楽上の発見、演奏での疑問点など気さくに話し、議論しあうことに日々刺激を受けています。

レッスンも同様でした。
曲をどう捉え、どのように表現したいのか。
漫然と音を鳴らしていると、「鐵さんの持つこの曲のイメージは何ですか?」と鋭く問われます。

楽曲分析などの予習に加え、自分の見解と表現の意志が求められます。
毎回のレッスンを、自己表現の場と意識するようになりました。

先輩後輩の伴奏で他科の教授のレッスンに付いていくと、楽器特有の語法を肌で感じ、ピアノ曲においても「この左手はチェロのピッチカート」などとイメージが膨らみます。

ピアノデュオや室内楽で自分の先生以外のレッスンを受け、外国の音大からの招聘教授の公開レッスンを聴講し、多角的に学ぶことができます。

副科は古楽(フォルテピアノ)を受講しました。
作曲された時代の楽器に触れながら、当時の奏法を学ぶと、ハイドンやモーツァルトの簡素な楽譜が生き生きと踊り出すようになりました。

実技試験では、1年次は10分、2年次は40分、3年次は30分のソロに加え協奏曲、4年次は60分の演奏が課せられ、合計すると在学中に3時間ものレパートリーを得られます。
試験の上位6人は、藝大モーニングコンサートの協奏曲のソリストに選ばれます。

指定科目の単位を取得すれば、中高の教員免許や、学芸員の資格が取れます。
同級生には企業に就職した人もおり、将来の選択肢は幅広くあります。

私は、右手を麻痺させた経験から、身体への負担が少ないピアノ奏法の模索を修士論文のテーマとしています。

今後も演奏と研究を並行して続け、後進に自分の経験や意見を発信できれば、と思っています。

(2016.6)