東京藝術大学入試情報サイト > 露木 春那
まだ見たことのない世界へ
小学六年生の修学旅行で東京を訪れた時、初めて現代アートたるものと真剣に向き合いました。「これも美術なのか!」様々な手法であらゆるメッセージを投げかける作品群と対峙したあの日、今まで絵画や彫刻だけが美術だと思っていた自分に稲妻が落ちました。新しい世界の見方を手に入れたあの日から私は、日常の中に美術が散らばっているというふうに思えたのです。そしてありふれた日常も美術作品を探すように暮らしたら、どんなに楽しいだろうと心からそう思ったのです。
私は長い間、「文字を書く」という行為に注目してきました。6歳から始めたお習字に始まり、高校卒業後には中国・杭州へ渡り中国美術学院で書法・篆刻を学びました。現在、私は「文字・言葉」を取り巻く、人々の感情変化に注目し、制作・研究を進めています。はるか遠い昔、人の「伝えたい」という熱意が言葉を生み、その言葉に形を与えたのが文字だと思います。言葉が形を持ったことで、距離も時間も移動可能になりました。人々は言葉・文字を通じて、頭の中のイメージを交換することが可能になりました。私たちは言葉や文字と向きあった時、自身の経験に照らし合わせて意味を補う作業をして理解をします。いま私が興味を持っているのは、「言葉・文字」のしくみです。辞書に載っているような皆で共有している意味だけではなく、個人的な感情までもが出入りできる余裕を持った「言葉・文字」のしくみについて考えています。
現在、私が身を置くGAP専攻には、まだ見たことのない世界へとつながる扉がたくさん用意されています。GAPのP、Practiceに含まれる実践、練習の意味を自分自身に言い聞かせ、「まずはやってみよう」と鼓舞する毎日です。そして、たいへん幸せなことにGAP専攻には、その本気で学びたいという想いを受け入れ、応援してくださる先生方と仲間達がいます。GAP専攻は、専門分野が異なる教授陣と多様なバックグラウンドの学生たちが集まる刺激的な環境です。それに加え、世界で活躍する招聘講師による社会実践論講義、木工・漆・染織・ガラス・和紙などを学ぶ伝統工房演習があります。私は、元来自分の中にある考えが、ほかのだれかによって違う言葉で言い換えられたり、異なる手法で表現されたりするのに出会う度、わくわくします。私のGAP専攻での学びは、開始から三か月しか経っていませんが、今後私たちには、ロンドン芸術大学・パリ国立高等美術学校との共同プログラムが控えています。これからも充実した日々が続いてゆき、さらにもっと盛り上がっていく学びを想像すると、夢ふくらむばかりです。(2016年7月)