東京藝術大学入試情報サイト > 田中 綾子

中学生の頃、保存修復という仕事を知ったことがきっかけとなり、藝大を志望するに至りました。
何百年、何千年も前に作られた作品が鑑賞できる状態にあるのは、今日までの計り知れない研究の日々と人々の技術の積み重ねによるものだと思います。誰かがやらなければ、物質である以上、作品は劣化し、見ることができなくなってしまいます。過去と未来を繋ぐ本当に大切な仕事だと思います。

そんな風に、人と美術と関わっていられたらと考え、藝大の大学院で保存修復の研究に取り組むこと目指しつつ浪人し、学部では彫刻科に入学しました。

しかしながら、入ってみると周りの同級生や先輩達の多くは作家を目指しており、教授からも作家を目指すことを前提として指導を受けます。そこで1,2年次の実習に取り組む中で、アーティストとは、アートとは、彫刻とは何だろうと考えることが多くなりました。制作を通してそういったことを考えていると、次第に彫刻というメディアへの関心が以前よりも強くなっていきました。

3年生からは前年度までの素材実習という枠組みを越え、自主的に制作をすることになります。そこでいよいよ、保存修復と彫刻、どちらの道を選ぶのか決めなければいけないなと思い、1年間迷った末彫刻を作り続ける決心をしました。

彫刻を選んだ理由としては、アート、彫刻が何なのか学部の3年間では私にはまだわからなかったからです。卒業制作をしながら、より深く彫刻について学び考えても、また卒業し大学院に進み彫刻を専攻する今も、知るに連れてさらにわからなくなっているような気がします。ただ、鑑賞や制作に限らず様々なことを通してアートについて、彫刻について考えている時間はかけがえのないものであり、また、わからないからこそ続けたいのだと思います。

藝大は、なんとなく過ごそうと思えばなんとなく過ごせてしまう場所かもしれません。今何をすべきか、どこに向かっているのか、自己と向き合い積極的に行動すること、学生の自主性を重んじるからこそ自由な時間が多いのだと思います。日々を大切に過ごしていきたいです。