東京藝術大学入試情報サイト > 布施 琳太郎

僕は本学の絵画科油画専攻を卒業した後、大学院映像研究科メディア映像専攻に進学しました。なぜならメディア映像専攻の修了生たちの活躍を拝見した際に、コンテンポラリーアートの文脈で仕事をすることを考えていた僕にとって、日本の大学機関のなかで最も適切な進学先だと思えたからです。そして教授の方々、またカリキュラムや機材などの充実はこれまでにない成長と挑戦を期待させてくれました。

実際、僕の考えていた以上に同期からの影響こそが大きく、そして豊かなものでした。彼/彼女たちは今日の社会で既に当たり前になった情報環境や文化慣習、社会インフラへの批評的な思考を基盤とした実践=制作を行います。ここで行われた対話は、作品制作だけでなく展覧会の企画やキュレーション、テキストの執筆も行う僕にとって重要な刺激となりました。そして更にユニークなコンセプトやアイデアを発想し、形にするための時間と環境を手に入れるために博士課程へ進学することを決めました。

この一年は学外でのテキストの執筆や、展覧会企画・キュレーション、作品制作を通して思考を熟成してきました。そこには修士時代の同期の人たちも、様々な仕方で関わってくれています。現在はこうした思考をジョルジュ・バタイユの芸術理論やサイボーグフェミニズムの身体論としての側面と比較しながら、徐々にサーベイ論文を書き進めています。研究者としてではなくアーティストとして、論文という形で時間をかけて思考を深めることができるのは、本専攻の特色だと僕は考えています。

将来は芸術祭や国立美術館規模の展覧会のキュレーションを行いながら、より広範な人たちに自身の作品を発信できるようになりたいです。そして理論と実践の両面から、コンテンポラリーアートの文脈に限定されない芸術の可能性を提示したいと考えています。そのなかで、これまで芸術に触れるはずもなかった人々こそが、新たなオーディエンスになるような契機を作り出せたらと考えています。

「The Walking Eye/歩行する眼」横浜赤レンガ倉庫、2019、写真 岩崎広大

「原料状態の孤独を、この(その)親指の腐敗に特殊化する」BLOCK HOUSE, 2019

 

布施琳太郎 Rintaro FUSE

1994年生まれ。アーティスト。2017年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。現在は同大学院後期博士課程映像研究科(映像メディア学)在籍。先史時代の洞窟壁画についてのリサーチとiPhoneの発売以降の社会についての思考を下敷きに、絵画や映像、インスタレーションの制作をはじめとして、展覧会企画・キュレーションや批評などの活動を行っている。主な展覧会企画に「iphone mural(iPhoneの洞窟壁画)」(BLOCK HOUSE、2016)、「新しい孤独」(コ本や、2017)、「ソラリスの酒場」(the Cave/Bar333、2018)、「孤独の地図」(四谷未確認スタジオ、2018)、「The Walking Eye/歩行する眼」(横浜赤レンガ倉庫、2019)など。他、参加グループ展多数。(掲載時)